コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/12/24

ミレナへの手紙

▼チェコの作家カフカが恋人ミレナにあてた書簡集(「ミレナへの手紙」白水社)を読んで、電話が登場する前に手紙の果たした役割を痛感させられた。感情の機微が揺らぐように表れる、手紙ならではの魅力を教えられた
▼ミレナとの間で数か月のうちに交わされた多量の手紙によって、このたぐいまれな書簡文学は誕生したが、書簡集自体は「手紙の時代」にあってはそう珍しいことでもなく、同時代の詩人リルケのほか、トーマス・マンやヘルマン・ヘッセなどにも書簡集が存在する
▼手紙の需要に応える形で制度も整備され、主だった都市では配達が午前と午後の2度あり、局留めの方法もあった。驚くべきことに、ウィーンやベルリン、ロンドンなどの大都市には「気送管」が備わっていた。地下に敷設されたパイプが郵便局を結び、圧送空気や希薄空気を利用し、手紙などを入れた筒がパイプの中をフルスピードで走っていく配送システム。近ければ5分、遠くても1時間かからず、着くとただちに配達されたという
▼カフカとミレナの書簡では、感情の高ぶりとともに手紙の数も増え、朝に昼に晩に――と、何通も同時に、あるいはあと先逆に届いたりした。カフカが手紙に番号を振ったのも、そうすることで読む順を相手に伝えようとしたためだ。途中で何か困難が発生すると、手紙の数は減り、愛情が復活すると、手紙はよみがえって数を増す。気持ちの変化は出だしの呼びかけや締めくくりの決まり文句にも表れ、儀礼的な「ミレナ様」が、親しみを込めた「ミレナさん」になり、やがては型通りの呼びかけも消える。最後のほうは諦観をたたえた手紙が交ざり、ついには別離の手紙。そこには親称を使わず、最初のときと同じ、よそよそしい他人行儀な敬称になっている
▼翻って2013年も押し詰まり、残すところわずかになった。気にかかるのは年賀状のこと。メール全盛のあおりで肩身の狭い手紙だが、折しもこの時期、先人が手紙に託した思いを胸に、筆者も年賀状の仕上げを急ぐとしよう。

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