コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/12/16

和食が「世界無形文化遺産」に

▼和食がユネスコの「世界無形文化遺産」に登録された。世界的な日本食ブームに鑑みれば当然とも言えるだろうし、私たちも、先人が育んできた素晴らしい食文化を誇りに感じる。同時に、その奥深さと可能性を再認識することで、日々の食生活を見直す機会ともしたい
▼近年の家庭料理は「洋風化」や「簡便化」が進み、和食が大切にしてきた「旬」や「素材」に対するこだわりは、日常の食卓から薄れつつある。主婦たちは「手が汚れる」「触るのが気持ち悪い」といった理由で生の肉や魚介をあまり使わなくなり、「手間がかからない」「保存がきく」などの理由から、加工食品や出来合い品を多用する傾向が強まっている
▼その反動でもあろうか、レストランや加工食品会社では逆に素材へのこだわりが強い。いわば非日常をアピールすることで商品価値を上げようとし、その結果、素材を語ることが非日常の価値のようになっている。このことは、中食・外食業界で起きた昨今の食品偽装問題とも決して無関係ではないだろう
▼今回の文化遺産登録では、和食の特徴として①多様で繊細な食材と素材の味わいを活用②バランス良く、健康的な食生活③自然の美しさの表現④年中行事とのかかわり――の4点が挙げられた。しかし日常の食卓を顧みれば、その特徴は、失われた、あるいは失われつつあるもののように思える
▼かつての日本料理は、いわゆる二十四節気ごとにその節気を反映した料理を出していたが、現在では名だたる料理店でも、料理は季節替わりか、せいぜい月替わりといった程度だ。冷凍技術や物流の発展によって豊富な食材が1年中いつでも手に入れられる恵まれた時代にあることが、逆に料理人の季節感やご当地感を喪失させているとの指摘もある
▼悲観的な見方をすれば、和食は絶滅の危機に瀕しているとさえ言えよう。今回の文化遺産登録を手放しに喜ぶのではなく、むしろぎりぎりのところで絶滅から踏みとどまり、和食文化継承の機会を手にしたと考えるべきだろう。

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