コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/10/15

ニホンオオカミ

▼深山幽谷に分け入るつもりもないのだが、いつしか消えたその不思議さに駆られて、ニホンオオカミのことを少しばかり調べてみた。明治期までは全国的に生息していたが、1905年を最後に公式な捕獲例はなく、91年に絶滅種に指定された。環境問題のシンボル的な動物ともされ、ロマンと科学を行き来する存在に惹かれる人も少なくない
▼今でも各地で目撃情報があり、生存の可能性が高いとして調査を行っている個人や団体もある。しかし1世紀もの間、死骸が見つかっていないのは不自然だと、生存の可能性には否定的な専門家が多い。見つかれば世紀の大発見となろうが、かつては珍しくもなかったがゆえに、逆に多くの謎が残された動物ともいえる。最近では、海外の秘境歩きで知られる早稲田大学探検部が捜索に乗り出したという新聞記事も見かけた
▼ニホンオオカミは体長1m前後、尾の長さは30~40㎝。シカやイノシシを捕食し、群れで暮らす。大陸などのオオカミより小さく中型日本犬ほどだが、脚は長く脚力も強かったとされる。頭骨や毛皮は数体、はく製も4体しか確認されていない。はく製などを見る限り、可愛げのある相貌だが、「和漢三才図絵」には「人の屍を見れば、必ずその上を跳び越し、これに尿して、後にこれを食らう」とあり、柳田國男の「遠野物語」にも人やシカ、ウマなどが食い殺される話が多い。悪者扱いはどうやら西洋だけではないらしい
▼絶滅の原因としては、狂犬病などの家畜伝染病と人為的な駆除、狼信仰による捕殺(頭骨等を加持祈祷に使用)などが考えられている。イノシシやニホンジカなど野生動物のその後の大繁殖も、ニホンオオカミという天敵の絶滅が一因といえるかもしれない
▼ニホンオオカミの目撃情報が多い地域に秩父山系があるが、同地にある三峰神社は江戸期以降、「お犬様」(狼)を神の使い(眷属)として祭っている。ニホンオオカミが今やこうした信仰の中にしか生きられないとするならば、やはり消え去った者の悲哀を禁じ得ない。

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