コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/10/01

式年遷宮

▼1300年以上も前から20年に1度、連綿と行われてきた伊勢神宮の式年遷宮(三重県伊勢市)は、世界の歴史の中でも貴重を超えてほとんど奇跡とさえ言える祭事だろう。今年の第62回もいよいよクライマックスを迎え、完成した新正殿に神体を映す「遷御(せんぎょ)の儀」が内宮(ないくう)で10月2日、外宮(げくう)で同5日にある
▼式年遷宮は、20年ごとにまったく同じ形で隣地に本殿などが建て直される。始まりは持統天皇の690年とされ、以来途絶えたのは、戦国時代のわずか120年余りだけという。20年というスパンは、社殿の清浄を保つ観点からも、建築技術や伝統工芸を伝承する上でも意味があるとされている
▼筆者が伊勢神宮を参詣したのは過去に2度ある。古い話だが、1度目は学生時代の研修旅行で教官の引率で学友と共に訪れたとき。ちょうど第60回遷宮(1973年)と第61回遷宮(93年)の中間ごろだったと記憶する。そして2度目も、第61回と今回の第62回の中間付近の2005年。奇しくもその年から8年がかりの遷宮が始まった。地元で遷宮開始の話題をあちこちで耳にしたのを思い出す
▼気の遠くなるほどの歴史ゆえか、伊勢神宮にはどこの神社とも違う独特の雰囲気がある。とくに内宮は、五十鈴川に架かる宇治橋を渡るあたりから、清涼で厳かな雰囲気に包まれる。「唯一神明造り」といわれる簡素にして荘厳な建築様式を、ドイツの建築家、ブルーノ・タウトが「究極的、極致的形式」と絶賛したのもうなずける
▼宗教学者の山折哲雄氏は、遷宮には「日本の神々の永遠性と無常性」という2つの性格が反映されていると説く。神の生命をいっぺん死んだことにして、さらに再生させ、そうして永遠性を担保する。世界にもまれなこうした形の儀式の継承にこそ希少性と魅力があると指摘する
▼7年後の2020年には東京五輪が開かれる。世界から集う多くの方々に、ぜひ足を延ばして、伊勢神宮に代表される日本の伝統・文化にもぜひ触れてもらいたいものである。

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