2013/06/03
官邸の幽霊
▼幽霊と妖怪(オバケ)はどう違うのか。民俗学者の柳田國男によれば、①妖怪は出現する場所が決まっているが、幽霊は狙った場所ならどこにでも出る②妖怪は相手が誰であろうと出現するが、幽霊は相手を選んで出る③妖怪は主に宵と暁の薄明かりに出るが、幽霊は丑三つ時(午前2時頃)など真夜中に出る――と定義されている(講談社学術文庫『妖怪談義』)
▼なるほどという気もするが、よくよく考えてみれば、この定義も現在では必ずしも当てはまらなくなっているようだ。よく聞く心霊スポット談や白昼に出る幽霊など「妖怪化した幽霊」もいて、その境界は曖昧になりつつある。それほど現代社会は両者にとって住みにくく、棲み分けも難しいということか
▼政府は先日の閣議で、民主党議員の「首相公邸に幽霊が出るとのうわさは事実か」との質問主意書に、「承知していない」とする答弁書を閣議決定した。冗談のような本当の話だが、菅官房長官も記者会見で公邸に漂う「気配」に言及。事実、小泉政権以来、公邸に1年以上住んだ首相はおらず、安倍総理も政権発足から5か月以上経つが、入居の気配すらないという
▼現在の公邸は1929年に首相の仕事場である官邸として建てられた。犬養毅元首相が暗殺された5・15事件や2・26事件など血なまぐさい事件の舞台になり、犠牲者の幽霊が出るとのうわさが絶えない。現在の公邸は旧官邸を移築・改装して2005年に完成したが、今でも正面玄関には2・26事件の際の弾痕が残る。この「公邸の幽霊」、政界では都市伝説として以前から有名だった
▼柳田による先の定義に照らせば、公邸の幽霊はどこにでも出る幽霊とは違うようだが、相手を選んで出るという点では当たっているかもしれない。いずれにせよ、入梅まもないこの時期に背筋をぞくっとさせるには、いささか時期尚早の感なきにしもあらず。しかも、こんなことで質問主意書を出す国会議員というのもいかがなものか。幽霊や妖怪もこぞって笑い、呆れているのではなかろうか。