コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2025/02/20

ハン・ガンの雪と現実

▼昨年アジアの女性として初めてのノーベル文学賞を受賞した韓国作家ハン・ガン(韓江)氏の小説を、このところ何冊か読んだ。生き生きと繊細で美しい文章にたちまち魅了されたが、とりわけ印象的だったのが、視覚と聴覚、感触を駆使した雪の描写だ
▼作者自ら「雪が降るたびに外に出て雪を拾って溶けるまで見たり、どれだけ寒くなるかを感じた」と語るように、雪へのこだわりは特別で、作品の中でも「濡れた糸のようにフロントガラスにくっつく雪の結晶」「終わりに近づくにつれて静寂に似ていく音楽の終止符のように、誰かの方に乗せようとしてそっと下ろす指先のように」といったフレーズが出てくる
▼「雪」が作者の物語のキーワードと言っても過言ではないが、もちろん雪は美しい半面、自然災害など恐ろしい一面もある
▼日本では今月上旬に強い寒気によって日本海側に大雪がもたらされたが、とても美しいなどの形容では片づけられないものだった。今年はいまだ雪らしい雪のない千葉県に居てはなかなか実感を伴わないが、映像などを見るにつけ、大変な苦労をされている方々が数多くいることを思わずにはいられない
▼異常気象の影響もあって、ここ数年は大雪による被害を聞かない冬はほとんどない。大雪が降れば、電線や吹雪・吹き溜まりによる交通障害、暴風や高波はもとより、屋根からの落雪、なだれ、電線や樹木への着雪、落雷や竜巻などの突風と、広範な被害を想定しなければならない。一時的に気温が上昇すれば、落雪やなだれなどの危険度も増す
▼18日ごろからは再び強烈な寒波が流れ込み、全国的に真冬の寒さが戻る予報が出ている。日本海側を中心に再び大雪や猛ふぶきが続く恐れがあり、気象庁では厳重な警戒を呼びかけている。関東では1年の中で最も寒い時期を過ぎても、寒気の影響で気温のアップダウンが激しく、長期に及ぶ影響も懸念される
▼ハン・ガン氏の描写する雪は美しくも厳しいが、やはり現実の世界では物語の中だけであってほしい。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ