コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2025/01/28

「カルトの帝王」デビッド・リンチの死

▼デビッド・リンチと言えば、映画「エレファント・マン」やテレビドラマ「ツイン・ピークス」などの作品でピンとくる人も多いだろう。奇怪な物語と独特な映像美で「カルトの帝王」とも呼ばれた映画監督のデビッド・リンチさんが78歳で亡くなった
▼筆者がリンチ作品と出会ったのは1980年の映画「エレファント・マン」だった。「象人間」と呼ばれた男の生涯を描いたこの作品を映画館で観て衝撃を受け、さらに米国の田舎町を舞台に少女の死体遺棄事件をめぐるミステリー「ツイン・ピークス」では、その意味深長で謎めいた世界に魅了された
▼同作は、一つの謎がさらなる謎を呼ぶ展開で世界的な大ヒットとなり、2017年の第3シーズンまで製作された。メロドラマや社会問題からコメディー、古典の引用、果ては超常現象まで、多岐にわたる要素を盛り込んだ物語世界は、何とも不穏にして奇抜で強烈。一度引き込まれたら逃れられない魔力に満ちていた
▼ほかにも「ブルーベルベット」や「ワイルド・アット・ハート」など多くの作品で高い評価を受けたが、いずれの作品でも一貫してメビウスの輪のようにねじれてループした、華麗で刺激的なドラマ世界が繰り広げられている
▼そんな中でも個人的に最高傑作と呼びたいのが「マルホランド・ドライブ」だ。そのひりひりと研ぎ澄まされた映像世界は、リンチワールドここに極まれりといった圧倒的なものだった。クラブ・シレンシオの異次元世界で幕を開け、そして幕を閉じる。作品のキーワードは「夢」「妄想」「混沌」の3つだろうか。とはいえ、物語の核心は女性同士の愛の物語で、リンチならではの混沌とした妄想世界が際立って胸に迫った
▼リンチ作品はどれも見る者に何らかの問いかけを残して終幕する。亡くなったのは今月15日で、ロサンゼルス一帯の山火事で避難した実娘の家で息を引き取ったという。少々うがちすぎかもしれないが、そんな偶然の中にもリンチの問いかけが込められているように思えてならない。

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