2024/12/05
大谷の歩みと「失われた30年」
▼大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の〝異次元〟の活躍は、日々の明るい話題として私たちの気持ちを大いに盛り上げてくれた。ナショナル・リーグの2024年シーズンの最優秀選手(MVP)にも選ばれ、日本選手がベーブ・ルース以来の「二刀流」で大リーグの「顔」になるとは、少し前まで誰も想像もできなかった
▼先日の新聞に、大谷選手の活躍を「失われた30年」と重ねて論じるユニークな記事が載っていた
▼「失われた30年」とは、バブル崩壊の1990年代初頭から2020年代初頭までの30年を指すもので、バブル崩壊後の不動産価格や株価の大暴落を受けて、銀行や証券会社などが倒産し、企業でもリストラやコストカットが行われた。不良債権問題から金融機関の貸し渋り・貸しはがしなどで、中小企業は大ダメージを受けた
▼大谷選手が岩手県水沢市(現・奥州市)で誕生したのは1994年。「失われた30年」は、確かに今年で30歳を迎えた大谷選手の歩みとほぼ重なる
▼1994年当時、日本はGDP(国内総生産)のシェアが世界2位の約18%を誇っていたが、その後、国際競争力や経済力が著しく低下し、2022年にはGDPのシェアが約4%に縮んだ。10年にGDPで中国に抜かれた頃から、人々は名状しがたい不安に駆られ、かつての自信も喪失した。11年には東日本大震災に見舞われ、さらに大きな痛手を負った
▼その後も経済低迷が続くなか、大谷選手はプロ野球から大リーグに移り、かつてないプレースタイルを確立し、投手でありながら豪快な本塁打を量産するという、既成概念を変える活躍を見せた。昨年は10年総額約1015億円(当時)の契約でドジャースと契約し、日米のスポーツ界で「象徴的な存在」となった
▼こうした時代だからこそ、私たちは大谷選手の姿にひかれ、その活躍に勇気づけられる。永遠に続くものでないとわかってはいても、この先もできるだけ長く大谷選手がもたらす〝夢〟に浸っていたいと思わずにはいられない。