コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2024/10/04

残念な川村美術館閉館

▼適切な表現かどうか分からないが、DIC川村記念美術館(佐倉市)に初めて足を運んだ時、〝鄙にも稀な〟という形容が真っ先に浮かんだことを思い出す。お世辞にもアクセスがいいとは言い難い場所に、これほど素晴らしい美術館が出来ようとは、まさに夢のようだった
▼広大な敷地に庭園や散策路、諸施設が整えられ、美術館は美しくモダンな建物で、マルク・シャガールやフランク・ステラ、マーク・ロスコなど現代美術の名品が多数所蔵されている。筆者の自宅からだと車で二十分余りの距離だったこともあり、足しげく通い、時を忘れさせる空間に遊ばせてもらった
▼そのDIC川村記念美術館が来年1月下旬から休館することが先ごろ、運営する化学メーカーのDIC(東京)から発表された。資本効率を改善するためで、東京への縮小・移転か美術館の運営中止のいずれかが基本方針という。最終的な結論は年末だが、いずれにしても残念としか言いようがない
▼同美術館は、同社が関連グループ会社とともに収集してきた美術品を公開するため、佐倉市の総合研究所敷地内に1990年に開館した。所蔵コレクションは17世紀のレンブラントから20世紀の現代美術まで多岐にわたり、展示作品にふさわしい空間づくりを目指した建物は故海老原一郎氏の手による。「作品」「建物」「自然」の3要素を調和させた美術館がコンセプトだった
▼発表によると、754点中384点がDICの所有で、資産価値は6月末時点で総額112億円に及ぶ。同美術館の土地と建物もDICが所有している
▼閉館については、同社の社外取締役で構成される「価値共創委員会」が保有資産として必ずしも有効活用されていないとして、「現状のまま美術館を維持、運営することは難しい」と判断した
▼今回の発表を受け、佐倉市などが同美術館の市内での存続を求める署名などの動きを見せている。閉館の方針が出されたとはいえ、何とか現地で美術館としての機能を維持できることを切に願いたい。

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