2024/08/27
前衛陶芸「走泥社」の時代
▼近年、現代アートの世界では、その一部分として「前衛アート」(前衛美術)が確かな位置を築いているように見える。ただ絵画や彫刻と比べれば、工芸分野、とくに陶芸などでは、前衛作品がなかなか日の目を浴びる機会が少ない気がしてならない
▼そんな戦後の前衛陶芸で、〝陶のオブジェ〟を京都から世に送り出した陶芸家集団があった。1948年に八木一夫らが結成し、20世紀の日本の前衛陶芸をけん引してきた「走泥社(そうでいしゃ)」である
▼その活動を振り返る展覧会が昨年夏から全国4か所を巡回し、最後の東京で9月1日まで開かれている。「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」と題して、その活動を検証する展覧会だ
▼走泥社は八木のほか、叶哲夫、山田光、松井美介、鈴木治の5人で結成され、以後、同人は入れ替わりながらも半世紀にわたり活動を続けた。いわゆる器ではなく、立体造形として芸術性を追求した陶芸作品を創り出し、そうした視点を日本の陶芸に根づかせた功績は大きい
▼陶芸好きなら走泥社の名は聞いたことがあるかもしれないが、その名の由来は意外と知られていない。筆者も初めて知ったが、中国の均窯(きんよう)の釉にみられる、ミミズが泥を這った跡のように曲がりくねった線状の模様「蚯蚓走泥文(きゅういんそうでいもん)」に由来するという
▼展覧会は3部構成で、1章と2章が前期(1948~63年)で「結成から〝オブジェ焼〟の誕生と展開」、3章の後期(64~73年)が「『現代国際陶芸展』以降」。陶磁器が持つ造形上の要素を現代の造形に昇華させようとした初期の前衛性意識、心象風景を表象するオブジェへの移行、さらに世界の陶芸表現に触れた後の展開――という流れをたどっている
▼多くの作家が離合集散を繰り返しつつ活動を続けた走泥社だが、やはり個人的には、その中心人物、八木一夫の作品に最も心を惹かれる。とくに現代陶芸の記念碑的作品と言われる「ザムザ氏の散歩」(54年)は、もとの形態をとどめない純然たる彫刻的作品としていまもその革新性に驚かされる。