コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2024/07/10

「百年の孤独」文庫化で話題

▼コロンビアのノーベル賞作家、ガルシア・マルケス(1927~2014年)の代表作「百年の孤独」が文庫化され、海外文学作品としては異例の売れ行きだという。インターネット書店では売り切れが続出し、都内の大型書店には特設コーナーが設けられるほどで、なぜいまごろと首をかしげた
▼「百年の孤独」は長年の愛蔵書として筆者の手元にもあるが、単行本だ。世界的な名著にもかかわらず「絶対に文庫化されない名著」の一つに数えられていたという
▼「百年の孤独」は架空の村マコンドを舞台に、ブエンディア一族の栄華と滅亡の100年を描いた、1967年発表の長編小説。これまで46言語に翻訳され、5000万部を売り上げた。日本語訳も72年から単行本として装丁を変えながら、約30万部を売り上げてきた
▼いまやラテンアメリカ文学に付き物の、マジックリアリズムという言葉を広く知らしめた小説だ。国内でも安倍公房や大江健三郎、中上健次といった錚々たる作家が影響を受けたことで知られる
▼マルケスと言えば、この3月に遺作「出会いはいつも八月」の邦訳が出たばかり。作者が認知症を患い執筆できなくなる直前の2004年まで手を入れていた作品という。一応最後まで書かれたが、作者自身が最終的にボツにしたことから、実質的には未完とみなされている
▼前半はマルケスらしい冗舌な表現でしっかり描かれているのに対し、後半では徐々に時間軸の矛盾や人物造形の乱れなどが目立つ。あれほどの天才もやはり老いや病に勝てなかったと思うと、複雑な気分になる
▼「百年の孤独」は稀代の傑作として神格化されるあまり、そのタイトルが名高くなりすぎて陳腐化し、スペイン語の作家は「孤独」という単語を使えなくなったとさえ言われる。「百」とすら書きたくなくなったと言った作家もいたそうだ
▼今回の文庫化でより多くの読者に届けば、作者も本望だろう。多くの作家が亡くなった途端に忘れられていく中で、ようやくの文庫化は出版社の英断とも言えそうだ。

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