コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2024/02/06

無縁社会の墓は

▼「墓じまい」」「墓離れ」といった言葉を最近、よく目にする。墓への思いや死生観、家族観の多様化などで、弔いや供養のあり方に変化が起きていることは承知していたが、筆者自身も昨年、身内を亡くして、その重い課題を突きつけられた
▼筆者の場合、親が区画分譲方式で購入した公営墓地に墓石まで建立してあったが、長らく入る者はなく、昨年亡くなった父親が結果的に納骨第1号となった。しかし正直なところ、葬儀から納骨までの一連の儀式だけでも、金銭面も含め疑問や矛盾を感じた
▼亡くなった父親の希望はある程度わかっていたので、その希望に沿ってやるべきことはやったつもりだが、それを孫子の代まで押し付けることは難しい。強制すれば、何より残った者たちに大きな負担を負わせることになる
▼墓は本来、先祖代々受け継ぐものだから、それを「おしまい」にする「墓じまい」などは、その語感だけでもつらいものがある。しかし、高齢化や核家族化が急速に進む今、墓の管理ができない、家の後継ぎがいないなどの事情から「墓じまい」をする人が増えるのは無理もないことだ。現実に引き取り手のない「無縁遺骨」の増加も深刻化している
▼あるアンケートでは、自分が死んだ後、墓に入りたいかどうかの問いに、61%の人が「入りたくない」と答えている。その理由は「子孫に負担を残したくない」が最多の3割強で、以下、「シンボル、よりどころだと思わない」「他の方法を希望」などと続いた。自分の遺骨をどうしたいかとの問いには「合葬墓や永代供養」「樹木葬」「海洋散骨」の順となった
▼「墓じまい」は、役所言葉では「改葬」と呼ぶそうだ。今ある墓所を更地に戻し、遺骨を別の場所に葬り直すからだ。2022年度には全国で15万件行われ、年々増えている。墓じまいされた墓石の不法投棄、墓石を収容した「墓石の墓場」もあり、課題が多い。いずれにせよ、「〇〇家の墓」に遺骨を埋葬する従来の慣習は選択肢の一つに過ぎなくなりつつある。

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