コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2023/11/14

偽薬の効用

▼信じるものは救われる――といっても、信仰や宗教の話ではなく、プラセボ(偽薬)の話である。偽薬でも本物と信じ込むことで治療の効果が表れる現象をプラセボ効果と呼び、その有効性はデータで証明されている
▼偽薬は、薬の効果を確かめる治験で欠かせない。薬の有効成分を科学的に証明するには、プラセボ効果を差し引く必要があるためだ。通常、薬を与える患者グループと本物そっくりの偽薬を与える患者グループに分け、患者も医師も本物か偽薬かわからない状態で両グループの結果を比較する
▼薬の開発のハードルは高く、薬の効果がプラセボ効果より確実に高いことを証明する必要がある。特に軽症の病気では薬の治験で差が見えづらい。新型コロナウイルスの薬でも効果の高さが証明できず実用化されなかったものが多かった
▼高価な偽薬のほうが安価な偽薬より効くとの実験結果もある。鎮痛効果があると説明された2㌦50㌣の錠剤を飲んだ人の85%が痛みの改善を感じたが、同様に10㌣の錠剤を飲んだ人は61%にとどまった
▼改善効果の要因としては、良い薬を飲んだという安心感が自然治癒力を高めることや、薬を飲んだ期待感が脳に好影響をもたらすことが考えられるという
▼最近では偽薬の多様な使用法も模索されている。高齢者施設で利用者が過剰に薬を欲しがる場合、偽薬で副作用を出さないようにするケース。医師が説明した上で患者らに偽薬を渡す「オープン・ラベル・プラセボ」と呼ばれる考え方も登場し、痛みの改善効果が報告されている。薬を飲んで良くなった体験が無意識に体に好影響を与えている可能性があるそうだ
▼筆者も年齢とともに薬の世話になることが増えつつあるが、飲み忘れたことを忘れている場合でも、特に体の不調を感じないことがある。「病は気から」のことわざには根拠があるということか。プラセボの語源は「私は満足するだろう」という意味で、偽薬の「偽」の字は人偏に「為」。立派に「人のため」になっていると言えそうだ。

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