2023/01/10
世相表す元日の出版社広告
▼元日の一般紙には、なぜか決まったように大手出版社の広告が並ぶ。出版不況と言われる中、以前に比べれば広告の社数も段数も減った気がするが、それでも訴求力あるキャッチコピーと相まって、考え抜かれた内容に目を奪われる。他の業種の広告より世相が反映されやすいようにも思う
▼今年の主なキャッチコピーを拾ってみると、新潮社は「いつだって、出会ったときが最新刊」。なるほどその通りだと膝を打ったが、デジタル社会のあふれる情報の波の中では、そう考えることで、慌てず流されず、自分に合った本と向き合う機会が増えるように思う。本には人それぞれに適齢期がある
▼「道は百も千もある。」とは文藝春秋。司馬遼太郎の『龍馬がゆく』の一節という。今の時代、本は紙に限らず、電子版も含めて様々な形がある。紙にこだわる時代は終わったと考えるべきだろう。となれば、それは新聞にも言えること
▼大修館書店のメインコピーは「信じられる。」で、辞書で知られる社らしく、不確かな情報が拡散し、想像を超えた事態が頻発する現代にあって、「いつの時代も、信じられる辞書でありたい」との願いを込めている
▼岩波書店は学術系出版社らしく「理性に立ち返る――。」とし、オランダの哲学者スピノザの文言を引いて、その関連書籍を前面に打ち出している。その引用には「人間たちは助け合うことではるかに容易に必要なものを手に入れることができる」とあり、「獣の所業より人間の所業を観想するほうがはるかに価値がある」と続く。ただし、人間の所業が獣の所業であるような現下の世界情勢では、スピノザの言葉があたかも逆説的な警句のように思えてならない
▼さらに小学館は「信じてみよう。」、マガジンハウスは「新しい年も、きげんよく」、集英社は「もっと もっと おもしろく。」。いずれもポジティブなメッセージで、本の力によって世の中を元気づけようとする意図が見える。不透明な時代にこそ、こうしたメッセージが必要であるに違いない。