2022/12/27
呪縛解いた「神の子」2世
▼サッカーW杯カタール大会はアルゼンチンの優勝で幕を閉じたが、優勝に導いた主将リオネル・メッシの活躍と優勝後の表情には、胸が熱くなった。天才が呪縛から解かれる瞬間をまさに目の当たりにした
▼35歳はあらゆるタイトルや名声を手にしてきた。スペインの強豪バルセロナなどのクラブでは欧州チャンピオンズリーグなど37冠。代表でも北京五輪、南米選手権で優勝し、バロンドール(世界最優秀選手賞)には7度選出。この輝かしい経歴に唯一、欠けていたのがW杯の優勝だった
▼18歳の代表デビュー以来、呪縛に苦しめられてきたのは、「神の子」と呼ばれたスーパースターで、2年前に亡くなったディエゴ・マラドーナの存在による。同じ左利きで、自在に球を操るテクニックと変幻自在のドリブル。1986年のメキシコ大会で優勝した英雄に重ね、国民は「マラドーナ2世」と期待したが、過去4回のW杯に翻弄され続けた
▼今回も初戦でサウジアラビアにまさかの逆転負けを喫し、「ここからすべての試合が決勝戦」との覚悟で、その後の試合に臨んだ。「最後のW杯になる」と語っていた5回目の今大会で、ようやく栄冠を勝ち取った。「これ以上何も求めることはできない」と語り、表彰式で渡されたトロフィーをわが子のように抱きかかえた
▼サッカー選手としては今も小柄なメッシだが、幼少期には成長ホルモンの分泌異常を患い、同世代の子どもたちに比べても小さく、あだ名は「ラ・プルガ」(ノミ)。人前でしゃべるのも苦手でシャイな子どもだったという
▼ただしサッカーに関しては抜きんでていて、負けん気も強かった。11歳ぐらいのころに亡くなった祖母思いで、ゴールを決めたとき天に指さすメッシのパフォーマンスは祖母への思いを示しているとも言われる
▼アルゼンチンといえば、メッシやマラドーナ以外にも、分野は違えどホルヘ・ルイス・ボルヘスという文学界の巨匠もいる。ときに途轍もない天才を生み出す土壌を備えた国のように思える。