2022/08/30
無形文化遺産めざす盆踊り
▼新型コロナウイルス感染の波はいまだ収まる気配もないが、行動制限のない今夏は久々に各地で多様なイベントが催された。「盆踊り」もその一つで、日本の夏の風物詩の代表格と言えよう
▼この身近な盆踊りが無形文化遺産になるかもしれない。文化庁が「風流踊」としてユネスコに申請しており、今秋にも登録の可否が審議される見通しという。盆踊りのほか念仏踊りなども含めて、伝承されてきた23都府県の37件をまとめて一括した遺産として申請された
▼盆踊りは、言うまでもなく盆の時期に先祖を供養する行事、またはその行事内で行われる踊りを指す。誰でも踊りに参加できるタイプと、見せ物として限定された踊り手が踊るタイプがある。前者は一般的に、広場の中央にやぐらを立て、やぐらの周囲を回りながら音頭に合わせて踊る形式で、多くの人になじみが深い
▼盆踊りの起源には諸説あるが、平安時代に空也上人によって踊り念仏として始められ、鎌倉時代に一遍上人が全国に広めたと言われる。室町時代には奇抜に着飾って踊る「風流」が流行し、先祖供養の意味で盆に踊られるようになり、江戸時代には各地に根付き、庶民が「非日常」を楽しむ機会となった
▼ただ、あまりの盛況ぶりに幕府や藩が一揆につながることを警戒し、時期や場所を制限したこともあった。明治時代初頭の1874年には「風紀を乱す」などの理由で盆踊り禁止令が出され、一時は衰退したが、大正末期には再興した
▼筆者も盆の時期には、通勤途中の車窓から何か所もの公園でやぐらを見かけたが、近年はコロナ禍も加わってか、減っているのが気にかかる
▼かつては、村落社会における娯楽と村の結束を強める機能的な役割を担ってきた盆踊り。形式の違いで各地の風土を伝え、地域コミュニティの核としての役割を果たしてきた。古くから踊りを守り、受け継いできた先人たちの苦労に思いを馳せつつ、無形文化遺産登録を機に、伝統行事として正しく後世に伝え、世界にも発信していきたい。