コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2022/07/20

紙の本の魅力

▼時代の流れというべきか、出版市場ではここ数年、電子書籍の販売額が右肩上がりに伸びているが、依然として「紙」の本に愛着を抱く読者も少なくない。筆者もその一人だが、日本史学者の馬場基さんが先日の新聞記事で、興味深い視線から本の魅力について語ってい▼紙の本の魅力は行き着くところ「めくれること」であり、めくるという行為が背徳感と興奮に満ちているという。ページの向こう側にあるのが有益で高尚なものか、まったくくだらないものかさえわからず、その秘められた何かをめくって見ることが、その魅力の理由だそう
▼言われてみれば、なるほどと頷くことしきりだが、ふと、デジタル版(電子版)が増長する新聞においても、紙の新聞は大なり小なり本の魅力に近いのでは、と考えた。もちろんページ数が限られ、同じテーマが複数面にわたって物語として連なることの少ない紙の新聞では、そのスリルの度合いも本とは比べようもないかもしれないが
▼さらに馬場さんは「ページのめくれ具合も乙なもので、新品の本のページがめくりにくいのは、初々しい恥じらいからだろう」と、本に対する愛着を、擬人化したような表現で語っている
▼めくったページを戻すことは、過去の確認と未来への躊躇であり、ページを往復すれば、時間を自在に制御している気分になる、とも述べ、紙の本の魅力を余すところなく伝えている
▼新聞にはさすがにここまでの自在性はなかろうが、手に触れたときの、紙の感触やにおいといった、五感に訴える部分には共通点があるに違いない。できることなら新聞にも、本に負けないくらいの知的好奇心を駆り立てる魅力が備わっていてほしいものだ
▼デジタル版に押され、紙媒体の部数減に悩まされているのは、紙の本も新聞と変わらないが、そんな時代にあっても、新聞ならではの魅力でしぶとく生き残りを図りたいものだ。とりわけ、実生活に直結する実利性や有益性なら本より新聞だと、胸を張って言える紙面づくりに心がけたい。

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