2022/04/02
独裁者の時代錯誤
▼ロシア軍がウクライナへの侵略を始めてから約2か月半となり、ウクライナ軍の激しい抗戦もあって、戦況は泥沼化の様相を呈している。第2次大戦後の欧州の歴史では類を見ない人道危機はいまだ終わる気配すら見えない
▼今回の大義なき侵略は「プーチンの戦争」とも言われるように、その責任はプーチン大統領にある。大国の指導者が独裁色を強め暴走すればどうなるか、国際社会は大戦以来の難題を突き付けられている
▼プーチン氏をここまでの暴挙に駆り立てたのは何だったのか、彼の頭の中を覗くのは難しいが、間違った歴史観による独善的な理屈は21世紀の国際秩序の中で到底通用するものではない
▼プーチン氏は帝政ロシアの版図回復への野心をあからさまに示し、強弁を繰り返し、プロパガンダとして利用している。たとえば「ドンバスの『同胞』をジェノサイド(集団殺害)から救う」とか「侵攻はウクライナによるロシア系住民への差別的対応が相次いだためだ」とか
▼さらに「ウクライナ侵攻は国連憲章に従って始めた」「首都キーウ(キエフ)近郊ブチャなどでの民間人虐殺はロシア軍と関係がない」「アゾフスターリ製鉄所に立てこもるウクライナ軍や武装組織アゾフ大隊が民間人を『人間の盾』にしている」など、こうした独りよがりの強弁は断じて容認できるものではない
▼又聞きの話で恐縮だが、スターリン時代の恐怖政治を想起させるグルジア映画「懺悔」(1984年)では、独裁者は意に染まない者を葬り、他人の行動も言葉も信じず、次のように語っているという。「暗い部屋では黒猫は捕まえにくい。いないならなおさらだ。だが決意を持てば、暗い部屋で黒猫を捕まえられる。たとえそこに猫がいなくてもだ」
▼そのせりふはそのまま、昨今のプーチン氏の論法と重なる。オーストリアの首相はプーチン氏との直接会談のあと「自分だけの世界にいる」と評した。もはや冷静な思考ができないほどの大ロシア主義の時代錯誤が、現在の悲劇を生んでいるのだ。