コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2022/01/31

愛されてきた虎

▼今年は十二支の寅年だが、動物の虎はなかなか絵になる被写体だ。千葉市内の百貨店地下ギャラリーに新年早々展示されていた絵手紙展でも、さまざまな虎が表情豊かに描かれていた
▼日本に虎は生息していないにもかかわらず、古くから愛されてきたことは、多くの美術品や玩具などにその姿が描かれてきたことからもわかる
▼虎が日本の文献に登場するのは、8世紀に成立した「日本書紀」で、欽明天皇6年(545年)の条に、百済に派遣された武人・膳巴提便(かしわでのはすひ)が虎を退治し、皮を持ち帰ったとある。10世紀に編纂された法令集「延喜式」には、五位以上の者には虎皮の着用が許されたとの記述があり、豹(ひょう)とともに虎の皮は相当の貴重品だった
▼日本で豹は虎のメスと考えられ、虎と豹をつがいとして表現した美術品も少なくない。虎の意匠は大陸から入ってきたが、日本に野生の虎が生息しないため、豹を虎のメスとする勘違いが生まれてしまったようだ
▼虎の勇ましいイメージは古く、神獣としても尊ばれてきた。一方で、子どもを大切に育てる、愛情深いけものともされ、強さの象徴や魔除けのほかに、子が生まれ、家が栄えることを願う象徴ともなった
▼虎を描いた現存最古の屏風絵は、単庵智伝(たんあんちでん)が16世紀に描いた「龍虎図」とされるが、その後も雪村や長谷川等伯、江戸時代には岩佐又兵衛、狩野探幽、円山応挙といった名だたる絵師が好んで虎を画題とした
▼安土桃山時代~江戸時代に水墨で描かれた虎はどこか愛嬌のあるものが多いが、これは、実物の虎を見る機会が絵師たちにほとんどなく、中国や朝鮮の絵画から想像し、身近な猫をモデルにしたからとも言われる。張り子の虎など、各地で庶民感覚あふれる郷土玩具のモチーフにもされてきた
▼日本で虎の実物を見る機会は今でも動物園などに限られるが、新年早々には「那須サファリパーク」で飼育員3人がベンガル虎に頭や腕をかまれ、重傷を負う事故も起きた。虎が猛獣であることも、ゆめゆめ忘れることのないように。

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