2021/12/09
インフラ老朽化への挑戦
▼「公共インフラも人間と同じで年をとるんです」。土木学会インフラ健康診断小委員会の中村光委員長が、ある新聞記事の中でこう語っていた。考えるまでもなく当然の話だが、はっとさせられた。コンクリート構造物などのインフラは頑強なものと考えがちだが、いつまでも丈夫なままであるはずはない
▼それでなくても、高度経済成長期に建設された公共インフラの老朽化は、21世紀に入って深刻化している。鉄筋コンクリート構造物の税法上の耐用年数は一般的に50年と言われ、国交省の推計では2033年には道路の橋梁や水門などの河川管理施設、港湾岸壁の約6割がその期限を迎える
▼転機となったのは、12年に山梨県の中央自動車道笹子トンネルで発生した天上板の落下事故だ。点検マニュアルで義務化されていたはずの打音検査が行われておらず、9人もの尊い命が失われた
▼その後も公共インフラの老朽化による事故は後を絶たず、最近でも今年10月には、和歌山市の紀の川に架かる「六十谷水管橋」が崩落し、約6万世帯が断水。千葉県でも震度5強の揺れを観測した地震で、市原市大坪の養老川に架かる水管橋が破損した
▼国は13年に道路法などを改正し、すべての橋とトンネルで5年に1度の定期点検を義務化した。これまでに全国の道路の約73万の橋とトンネル約1万か所が最初の定期点検を終え、橋梁の0・1%とトンネルの1%が、4段階評価の4番目にあたる「緊急に措置を講ずべき状態」となった
▼同省の試算では、公共インフラの維持管理には、不具合が生じた後に補修・補強をする場合、48年までに最大約280兆円が必要とされるが、事前に補修・補強を行えば、その費用を約3割削減できる
▼ただし点検の最大のネックは予算と人手不足だ。今後は、ロボットやドローンなどの最新技術を活用して経費の大幅な削減を急ぐ必要がある。高度成長期以降、日本は高い技術でインフラ整備をけん引してきたが、今後の老朽化対策でも技術で世界を救ってほしい。