コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/11/04

広がる「相対時間」

▼日本のイメージの一つに時間の正確さがある。しかし江戸時代までは、正確どころか、ルーズさを嘆く日記を残した外国人技術者もいる。「時間に正確」のイメージ形成には、1872年に開業した鉄道が契機となった
▼当時の鉄道は定時運行を守るため、時刻表に基づき、発車5分前に駅にいない客は乗車させない徹底ぶりだった。自然の時間軸で生きてきた日本人に初めて分刻みの時間を認識させた
▼日本の鉄道の正確さは今でも世界に類を見ないほどで、数分の遅延や数十秒の早発でも謝罪・告知されるのは周知の通りだ
▼そうした時間の規律を日本人に植え付けた鉄道の時刻表示が大きく変化している。JR東日本は2年前に山手線で駅ホームにある列車の発車案内表示を「〇時〇分」から「(列車到着が)約〇分後」に変更。東京メトロ銀座線も2018年から同様に改めた
▼誰が見ても同じ「〇時〇分」を「絶対時間」と言うのに対し、「〇分前」など、見る人次第で変わる表示は「相対時間」と呼ばれる。相対時間は「待ち時間〇分」「ご案内まで〇分」など、テーマパークのアトラクションや行列のできる飲食店などでよく見かける。待ち時間が長ければうんざりするが、利用者目線の表示なのでわかりやすい
▼相対時間は防災面でも活用されており、「津波到達まで〇分」などという表示で知らせる自治体も増えている。一刻を争う事態の場合、手元の時計に狂いでもあれば生死を分ける可能性すらあり、相対時間のほうが的確だ
▼絶対時刻の代名詞といえる「腕時計」も近年では出荷数が減り続け、ここ10年で3割以上減ったという。90年代後半に携帯電話が登場し、2010年代前半にはスマホが追い打ちをかけ、コロナ禍による外出控えも影響している。代わって台頭してきたのがスマートウォッチで、この市場に参入する有名ブランドも増えている。とはいえ、リチウムイオン電池の劣化によりその寿命はおおむね3年というから、便利さを差し引いても、一生ものというには程遠い。

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