2021/07/06
納豆と豆腐の語源
▼学生時代に「納豆」と「豆腐」の語源について教えられた記憶がある。いわく「(両者は)奈良時代に中国から日本に渡来した際に間違えて文字が逆になってしまった」。確かに腐っているわけではないのに腐らせたように見えるのは「納豆」のほうで、当時はその説に「なるほど」と頷くほかなかった
▼両者が渡来した際に、品名を示す木箱の貼り紙が突風ではがれてしまい、船員が貼り紙を元の場所に戻したつもりが逆に貼ってしまった。これに端を発する誤用に由来するという説だ
▼しかし調べてみると、どうやらこの説はもっともらしい誤りであるようだ。というのも、豆腐の発祥は中国だが、その中国でも同じ漢字をあてる。実際に日本で「豆腐」という漢字が文献に見られるのは、鎌倉時代の日蓮上人の書状からだという
▼そもそも古くから中国では「腐」に「くさる」の意味はなく、「ぶよぶよしたもの」という意味で、その意味からすれば、豆腐が「豆腐」の文字であっても何ら不思議はない
▼逆に「納豆」はお寺の台所、つまり納戸で作られた豆だからこう表記すると、元禄時代の『本朝食鏡』に書かれているという。このほか、幕府や帝に献上した豆料理だったからとか、神様に納めた豆だったからとか、「納豆」の語源には諸説ある
▼大豆らしきものは縄文時代から日本にあったことが発掘調査で確認されており、納豆に似た食べ物が古くから存在していた可能性も指摘されている
▼いずれにしても、日本人の納豆や豆腐へのこだわりは今に始まったことでない。特に納豆は、よくかき混ぜると美味しくなると言われる。美食家で知られた北大路魯山人もしつようにかき混ぜたといい、「糸を出せば出すほど納豆は美味くなるから、不精をせず、極力ねりかえすべき」と、その偏愛ぶりを物語る記述を残している
▼近年では血栓を溶かす「ナットウキナーゼ」など様々な効能が注目されている「納豆」。「豆腐」とともに、日本の食卓の定番を、これからも愛し続けていきたいものだ。