コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/04/20

「高輪築堤」保存いかに

▼東京都港区の「高輪築堤」を巡って、開発か保存かの議論が巻き起こっている。貴重な遺構が開発で消えてしまうのは、何とも惜しい。開発と保存のジレンマをまたも難題として突き付けられた格好だ▼高輪築堤は1872年、日本初の鉄道が新橋―横浜間に開業した際に、海上に線路を敷くために築かれた。「海上に線路」と聞くだけで、その価値とともに先人の苦労がしのばれる
▼築堤は現在のJR田町駅付近から品川駅付近までの長さ約2・7㎞に築かれ、その後の埋め立てで撤去されたと考えられていたが、2019年の品川駅改良工事により石積みの一部が発見され、20年には再開発区域の高輪ゲートウェイ駅付近の車両基地跡からも遺構が見つかった。確認された遺構は約800mに及ぶ
▼一帯ではJR東日本が1~6街区の再開発を進めており、築堤の周辺でホテルやオフィスなどの入る4棟の超高層ビルを計画。このため、JR東は開発計画の大幅な見直しに消極的な姿勢を示してきた
▼日本考古学協会は「世界史的にも稀有な遺跡」として、現地での全面的な保存と開発計画の抜本的な見直しを訴える声明を発表し、2月には文部科学相が開発・保存の共存と現地での保存公開を検討するよう求めた
▼JR東は一部を設計変更する案を示し、特に歴史的価値が高いとされる「第七橋梁」の部分を中心に、2・3街区の遺構の一部を現地保存することとし、それ以外は「記録保存」にとどめる方針を示した
▼この譲歩案に検討委員会は一定の評価をしつつも、4街区の遺構についても現地での保全を要望。しかしJR東は、4街区が開発の中心であることから変更が難しいとの姿勢を崩していない
▼今月10日には4街区から出土した遺構が市民に公開され、長さ約380mの石垣のほか、日本発の鉄道信号機の跡とみられる遺構も含まれた
▼両者の主張に依然隔たりはあるものの、最良の保存方法がどうあるべきかが、現代を生きる私たちに問われている。今後の協議の行方に目を凝らしたい。

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