コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/03/09

ヒールでない「インドの狂える虎」

▼往年の狂乱ファイトを知る者にとって、これほどギャップを感じるニュースも滅多にあるまい。ヒール(悪役)中のヒールとして日本で活躍したプロレスラーのタイガー・ジェット・シン氏が運営する財団が、東日本大震災当時の支援活動などで対日友好親善に貢献したとして表彰された
▼タイガー・ジェット・シンといえば、凶器を使った攻撃や派手な場外乱闘で、日本のリングでは泣く子も黙る存在だった。今もあまた存在するプロレス界のヒールとは比較にならない暴れっぷりで、ひたすら恐ろしい存在だった
▼1973年に初来日し、アントニオ猪木氏との抗争劇で絶大なインパクトを残した。同年、新宿伊勢丹前で猪木氏を襲撃した「乱闘事件」は今でも語り草だ。大勢の帰宅客でにぎわうさなかでの襲撃は、目撃者から警察にも通報された。広く一般にまで話題になり、シンは本当に狂っているのではないかとの印象を与えた。以後、両者の闘いは世間の注目を集め、遺恨がピークに達した試合では、猪木がシン氏の右腕を骨折させる凄惨な試合となった
▼両者の攻防は一歩間違えばレスラー生命に関わる激しいもので、超えてはならない一線を超えることも是とする暗黙の了解があったとも言われる。それでも、プロレスというエンターテイメントでは「作られたヒール」という側面もあっただろう
▼そんなシン氏だが、日本との深い縁もあってか、ことさら日本を愛してくれていたようだ。東日本大震災で被災した児童への支援活動などが評価され、シン氏の率いるカナダの財団が先月、佐々山拓也・在トロント総領事から表彰を授与された。シン氏はオンラインでの授賞式で「日本にはたくさんの家族のような友人がいる。震災は私にとっても非常に衝撃的で、何とかしなければならないと思った」と振り返った。悪役として恐れられた話題には「日本では多くの人に愛されてもいる」と笑顔に。どうやら私もシン氏のほんの一面しか見ていなかったことに、遅ればせながら気づかされた。

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