コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/02/16

驚きの発見「北斎版木」

▼江戸時代を代表する浮世絵師・葛飾北斎(1760~1849年)の一枚摺りの錦絵(多色摺り木版画)の制作に使われたとみられるオリジナルの版木が、先ごろ都内で確認され、話題になった。北斎の一枚絵の版木は国内では非常に珍しく、研究者の注目も高いという
▼驚いたことに、その版木は古い火鉢の側面に貼り付けられていた。美術品市場に出回っていたものを美術商が入手したとのことで、版木がどのような変転を経てきたのか興味は尽きない
▼見つかったのは「桜に鷹」(1834年)の絵柄を写したとみられる版木で、重ね摺りの初期段階で絵の輪郭線を墨で複写する「主版」といわれるもの。正月に飾る吉祥画を描いた連作「長大判(ながおおばん)花鳥図」の1枚で、桜花を背景に架木(ほこぎ)に止まる鷹狩り用の鷹が描かれている
▼北斎といえば90年の生涯で、30回の改号や93回の転居をしたことでも知られる。奇行も多く、話題に事欠かない人物だったようだ
▼終生、自らの芸術に満足することなく、奥義を窮めることに執着を燃やした。「富嶽百景 跋文(ばつぶん)」には、これまでの絵は取るに足らず、73歳にして動植物の姿形を少しは悟ったと書かれている
▼錦絵「桜に鷹」もこの頃の作品とされ、北斎が「為一」の筆名で「富嶽三十六景」などのヒット作を手掛けた時期に当たる
▼ところで、北斎は写楽と並んで浮世絵という日本文化の代表格にもかかわらず、両者とも国宝に指定された作品はない。そもそも浮世絵に国宝は1点もなく、重文が19件あるだけだ
▼これは浮世絵の多くが版画、つまり複製品という性格による。一点ものの質を見極める文化財指定の観点では、一つの版木から摺られたプリントが数多く存在する浮世絵には指定が難しい面がある。古くは19世紀後半に欧州で「ジャポニスム」を巻き起こし、印象派にも多大な影響を与えた浮世絵だが、現在の文化財保護制度にはなじみにくい事情がある。将来、そうした制度の枠組みが変わり、北斎らの作品が国宝に指定される日は来るのだろうか。

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