2020/10/26
馬具に玉虫の羽
▼福岡県古賀市の船原古墳(6世紀末~7世紀初め)で出土した馬具の中に、玉虫の羽を組み込んだ飾り金具があることがわかり、国宝級の装飾として先日のニュースで報道された。羽の色彩は失われていたが、当時の姿を復元した模型からは、その華麗さがうかがい知れる
▼玉虫の羽を装飾とした工芸品としては、真っ先に有名な奈良・法隆寺の「玉虫厨子」(7世紀、国宝)が思い浮かぶが、国内ではこれを含めて3か所でしか玉虫を使った装飾技法は確認されておらず、今回の馬具からも被葬者の地位の高さが想像される▼馬具は馬の腰につり下げる「杏葉」と呼ばれる装飾で、幅10㎝ほど。植物の葉の文様を透かし彫りにしたハート形の金銅板と土台の鉄板の間に、玉虫の羽が20枚ほど敷き詰めるように挟み込まれていた。朝鮮半島・新羅の最高級の工芸技法で、新羅製の可能性が高いという
▼玉虫科は国内にも多くの種類があるが、なかでも標準和名「タマムシ」として知られる種は、美しい外見を持つことから古来より珍重されてきた。細長い米型の甲虫で、全体に緑色の金属光沢があり、背中に虹のような赤と緑の縦じまが入る。天敵である鳥には「色が変わる物」を怖がる性質があり、金属光沢は鳥を寄せ付けず、身を守るためとも言われる
▼法隆寺の「玉虫厨子」同様、今回出土した馬具からも玉虫そのものの貴重さがうかがえ、古代の人々は玉虫に、美しさや神秘性、あるいは神性めいたものまで感じていたのかもしれない
▼ただ現実には、玉虫の羽化脱出後の成虫寿命は約1か月に満たず、死後も色褪せない美しさを永遠に残そうという思いも工芸品には込められている気がする
▼このように古くから珍重されてきた玉虫だが、私たちがよく使う言葉に「玉虫色」がある。玉虫の羽が見る角度で色を変えるため「どのようにも解釈ができ、はっきりしないもの」といったたとえに使われる。あの美しい姿からすれば、何とも不名誉な意味で、いささか気の毒な気がしてならない。