2020/03/10
人間関係の「汚染」こそ脅威
▼新型コロナウイルスの感染拡大で「トイレットペーパーが品薄になる」などの誤った情報がSNSなどで拡散している。食料品についても農水省が「不足していない」として、落ち着いた購買行動を呼びかけた。ウイルスより怖いのはある意味、こうしたデマなどの虚偽情報かもしれない
▼感染者が7000人(8日現在)を超え、日本と同様の一斉休校措置がとられているイタリアでは、こうしたデマ情報など社会生活や人間関係を「汚染するもの」こそが新型コロナウイルスのもたらす最大の脅威だと、ミラノの高校の校長が学校のホームページ上で生徒へのメッセージとして呼びかけ、話題になった
▼この校長は、イタリアの文豪マンゾーニが19世紀に書いた文学作品「いいなづけ」の一節を紹介しながら、「ペストがイタリアで大流行した17世紀の混乱の様子は、マンゾーニの小説というより、まるで今日の新聞を読んでいるかのようだ」と述べ、文明的で合理的な思考の必要性を訴えた
▼「いいなづけ」では、当時のペスト感染の様子を「外国人を危険と見なし、当局間は激しい衝突。最初の感染者をヒステリックなまでに捜索し、専門家を軽視し、感染させた疑いのある者を狩り、デマに翻弄され、愚かな治療を試し、必需品を買い漁り、そして医療危機」などと描き、新型コロナウイルスに日々脅かされている現代社会にもそのまま移し替えられるような、何とも耳の痛い言葉が並ぶ
▼さらに小説では「人々が不安になっている時には、話を聞いただけで見たような気になってしまうものだ」と、パニックに陥った時の人間の心理も描写している
▼日本でも、大正12年に発生した関東大震災では、混乱の中で、日本に来ていた多くの朝鮮人が殺害される事件が起きた。この時も発端は根拠のない流言飛語だったと言われる
▼ペストの時代とも関東大震災の時代とも違い、現在は医学が発達し、情報伝達手段も多い。歴史から学び、合理的な考え方に立って、目下のウイルス禍に打ち勝ちたい。