コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/12/03

復旧望まれる「長柄横穴群」

▼台風15号や19号、21号に伴う記録的大雨は、国や県が指定、登録する文化財にも大きな被害を及ぼした。県教委の調べでは、先月の時点で被害総額が少なくとも約9億円に上り、被害件数は市町村指定まで合わせると239件に達する
▼国重要文化財の神野寺表門(君津市)の倒壊や、国特別史跡の加曽利貝塚(千葉市若葉区)の倒木による被害などについては先に小欄でも触れたが、国史跡の長柄横穴群(長柄町)も三つの災害全てで被害を受けた。多数の木が倒れ、見学路の一部や安全柵も壊れた
▼幸い横穴本体は無事だったが、9月から見学ができなくなっている。同町教委によれば、鋭意復旧作業を行っているが、再開の見通しは立っていない
▼筆者が横穴群に初めて足を運んだのは、10年ほど前のこと。県道から狭い道を進んで田んぼの間を抜けた先にある横穴群を目の当たりにした時には、本当に驚いた。斜面に数えきれないほどの横穴がこれほど完全な形で残っているとは、にわかに信じられない思いだった
▼古墳時代の終わりごろに造られた横穴墓で、1995年に国の文化財指定を受けた。横穴は36基確認され、6世紀の終わりから9世紀にかけて造られたものとみられている。中でも7世紀半ばに造られたと考えられる13号横穴墓の玄室には、五重塔や鳥、舟、人物などの線刻画が残っている
横穴墓の形式は、羨道と玄室の間に段差を持つ「高壇式」で、段差は1.5mから最大2・9mあり、全国でも珍しい特色を持つ
▼15号墓には遺体を置いた棺座が4か所あり、16号墓には墓前域が残され、この墓前域でまつりごとをしたと考えられる。また、17号墓には家形で床面に3か所の棺座が設けられている。ここでどのようなまつりごとが行われたのか、当時の死生観とも絡んで興味は尽きない
▼同町ではこれまで保存整備を進め、2010年にはガイダンス施設も完成した。1300年以上の間、古代人の祈りの心を残す形で保たれてきた横穴群の、一日も早い復旧・再開が望まれる。

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