コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/11/12

赤裸々すぎる文豪の悪口

▼『文豪たちの悪口本』(彩図社)がすごい。正確に言えば、文豪たちの悪口がすごいのだが、本の企画としてもすこぶる面白い。文豪と呼ばれる大作家たちのことゆえ、さぞ理知的でオブラートにくるまれた悪口かと思えば、大違いだ
▼言葉のプロらしく相手を刺すような悪口を言う文豪もいるかと思えば、作家らしい繊細さが見え隠れする感情的な悪口に終始する文豪もある。罵詈雑言とも言えるその赤裸々さに変わりはなく、いずれも一筋縄ではいかない
▼同書に収録された悪口は、文豪同士のけんかや家族へのあてつけ、世間への愚痴などさまざまで、随筆や日記、手紙、周囲の証言などから選ばれている。その大半が文壇を騒がせ、新聞や雑誌で連日話題にも上った、衆目の中での非難合戦だ
▼芥川賞の選考委員だった川端康成に対して、受賞が叶わず「刺す」とまでぶち上げた太宰治の恨み節はよく知られるが、さらに激しいのは詩人・中原中也の規格外の言動だ。友人に無茶ぶりを発揮するのは日常茶飯事、初対面の相手にも喧嘩腰でからむことがしばしば。太宰治でさえ初対面で辟易したようで、そのとき中也が太宰に放った言葉が「何だ、おめえは。青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって」
▼「文壇の大家」対「織田作之助、坂口安吾、太宰治ら無頼派作家」という構図も本書で浮き彫りにされる。とりわけ太宰治の志賀直哉への罵詈雑言を連ねた文面には、あまりの執拗さに空恐ろしくなる。「思索が粗雑だし、教養はなし」と一刀両断。『暗夜行路』については、ほとんどがハッタリで、あるのは自己肯定のすさまじさだけとまで言い切っている
▼文藝春秋の経営者だった菊池寛にもずいぶん敵が多かったようで、今東光や永井荷風らともとことんやりあっている。荷風が42年間にわたって記した『断腸亭日乗』にはしばしば菊池への罵詈雑言が見える。世相悪化の原因まで菊池にあると書きなぐっているあたりは、もし自分が渦中だったら「あな恐ろしや」と尻込みせずにはいられない。

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