コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/07/26

ロマンあふれるプロジェクト

▼また一つ、ロマンあふれるプロジェクトが始まった。日蓮宗の開祖・日蓮(1222~82)の生誕地、鴨川市天津で、現在は海中に沈むとされる海辺周辺の現地調査が行われる。地元で語り継がれる海底の井戸跡や初期の誕生寺などの遺物の発見を、海洋考古学の専門家らが目指す
▼日蓮生誕800年となる2021年に向けて、新たな観光資源を発掘するのが目的。生誕地跡の科学的な調査は今回が初めてという
▼日蓮は小湊「片海」の漁師の子に生まれたとされる。伝承によると、誕生のとき周辺に時ならぬ青蓮華ハスの花が咲き、岩間から泉が湧き出し、海面にはタイが群れ集まった。これらの不思議な出来事は、日蓮誕生にまつわる「三奇瑞」と言われる
▼生家跡には1276年に直弟子が「誕生寺」を創建するが、地震などで生誕地周辺は海中に没したとされる。しかし海底には当時の井戸跡が残り、真水が湧き続けていると伝えられる▼調査対象は太平洋に突き出た大弁天島と小弁天島の海岸周辺で、水深1~2m。波打ち際のため現地調査には困難が予想されるが、痕跡の発見に期待したい
▼筆者も何度か小湊の「鯛の浦」を訪れ、マダイが群れで泳ぐのを見た。本来、マダイは深海性で群れをなさないが、小湊沿岸の「妙の浦」では海面付近で群れ泳ぎ、日蓮の化身・分身として大切にされている。〝奇瑞〟は現代にまで続いているようだ
▼ロマンあふれるプロジェクトと言えば、他方で暗雲垂れ込める知らせも耳に届いた。新たな地質時代「チバニアン」命名に向けて研究グループが進めていた国際機関への申請ができない事態になっているという。反対する男性が、地層のある市原市の土地の借地権をとり、申請に必要な「自由な立ち入りの提出」ができなくなっている
▼市では研究目的の立ち入りを保障する条例を制定する構えだが、9月までに提出できないと計画が白紙に戻る可能性がある。こちらは地球規模の壮大なロマン。このまま潰えてしまうとしたら、あまりに惜しい話だ。

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