コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/04/09

ほんものの食の豊かさ

▼フランス料理といえば、敷居が高く感じる方もおられるだろうが、やはりその道の第一人者の話は含蓄に富む。最近、目にしたアラン・デュカスさんのインタビューもそうだった
▼パリやロンドン、東京など世界各地に計30店のレストランを展開する実業家だが、意外にも料理人になった原点は、身近な家庭料理、幼いころ祖母が作ってくれた料理だと語る。子牛のクリーム煮やキノコの蒸し焼き、鴨のコンフィなど、台所から漂ってくる匂いにわくわしながら、料理が出てくるのを待っていたそうだ
▼こうした素朴な家庭料理が料理界へ導いたというのだから、飽食の時代にあってインスタントやレトルト食品などがあふれる今の日本で、大人も子どもも食の本質的な豊かさを享受できているかとなると、はなはだ心もとない
▼そういえば、同じ仏シェフで「厨房のダ・ヴィンチ」と称された故アラン・シャペルさんも、かつてこんなことを語っていた。「フランスで料理が最後の祖母と言われるのは、母親が与えうる最後のものが料理だからだ」
▼「おふくろの味」とは日本でもよく言われるが、どれほど洗練された高級料理も、原点はこうした愛情あふれる家庭料理にあるのかもしれない
▼デュカスさん自身、いま理想とする食は、地産の旬の野菜と穀物だけを使い、調味料は限りなく少なく、優しく火を通し、できるだけ自然のままを味わう素朴な料理とし、「素朴な料理も美食足り得る。祖母の料理が原点だ」と述べている
▼1970年代に登場したヌーベル・キュイジーヌは「新しい料理」を意味し、健康志向の食材選びや料理、鮮やかな盛り付けが特徴だったが、この潮流には和食が大きく影響したと言われる
▼デュカスさんも「伝統の尊重」と「現代的であること」が「独創」に結び付くと考え、二つの文化は健全なライバル関係にあると、和食を高く評価する。ただし「映画の本家がハリウッドであるように、美食の本家はフランス」と、自国の料理への賛辞も忘れてはいないが……。

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