2018/12/11
遺産登録の「来訪神」
▼日本各地にこれほどユニークな神々がましますとは正直、驚いた。男鹿のナマハゲや吉浜のスネカ、能登のアマメハギ、宮古島のパーントゥなどなど。「来訪神」という言葉にも何やら新鮮な響きを感じさせられる
▼仮面・仮装の神が家々を訪れる「来訪神」がユネスコの無形文化遺産に登録された。8県10の行事が対象で、東北から沖縄の離島まで広域に及ぶ
▼「来訪神」は、正月などに仮面で異形の神に仮装した者が集落に現れ、怠け者を戒めたり、人々に幸福をもたらしたりする年中行事だ。日本古来の神観念や民間信仰の形をよく残しているとされ、基本的には年に一度、決まった時期に人間の世界に訪れる
▼「来訪神」の多くは、子どもたちのしつけや家族の絆の強化に重要な役割を持つ。大人でも引いてしまうほど恐ろしい形相のナマハゲらに、子どもたちが思わず泣き叫ぶ様子は、テレビなどでもよく報じられる。しつけには効果覿面だろうが、トラウマになるのではと、見ている方が心配になるほどだ
▼これらの神を学術的に考察したのは、柳田国男と折口信夫という民俗学の両巨頭。柳田は、私たちの祖先が子孫の世界に現れ、豊作を願う守り神のように恵みや制裁をもたらすと考えた。折口は、海の彼方にある異世界である「常世」から来訪する「まれびと」ととらえた
▼いずれの神も常住常在せず、祭りなどの機会に訪れ、終わればまた還ることから「来訪神」と定義付けられ、外から来た存在を「可視化」するために仮面や仮装をする点では共通している
▼ただ、過疎や少子高齢化でこれらの伝統を守ることは難しくなっていた。男鹿のナマハゲは平成になって30か所以上で途絶え、信仰の希薄化などで、子どもが泣くからナマハゲを家に迎えたくない世帯も増えたという
▼今回の無形文化遺産登録は喜ばしいが、従来の財政支援中心の保護措置では解決しない課題も残る。行事の価値が国際的に認められたこの機を、由緒や伝統を自覚し継承していくための追い風としたい。