コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2018/11/30

文豪写真の第一人者、林忠彦

▼専門新聞団体が主催する写真コンクールの審査会とその後の表彰式で、新たに審査委員に加わった写真家・林義勝氏にお目にかかった。数々の審査や写真家の育成に携わる氏ではあるが、その凛とした雰囲気そのままに、真摯に応募作品に向き合う姿が印象的だった
▼氏の父は言わずと知れた、昭和を代表する写真家の故・林忠彦氏だ。義勝氏はその四男にあたる。父・忠彦氏が人生最後のライフワークとして義勝氏とともに完成させた作品「東海道」は、「写真は記録」という忠彦氏の一貫した信念を感じさせ、今なお見る人の心を強く揺さぶる
▼義勝氏監修による写真展もたびたび開かれており、07年の写真展における義勝氏のメッセージには「東海道」の撮影に挑む忠彦氏の壮絶な姿が記されている。「病を押しての撮影の旅は、肉体的にも精神的にも容易なものではなく、父の後ろ姿を見ながら目頭を何度も押さえたことを思い出す」と述懐し、同じ写真家として「奥深さを知る旅でもあった」との感慨を述べている
▼林忠彦といえば、昭和の文豪写真の第一人者としても知られる。とりわけ、東京・銀座のバー「ルパン」のカウンターで撮られた太宰治の写真は多くの人がどこかで目にしたことがあるだろう。太宰の写真と言えば、真っ先に浮かぶ伝説の1枚とも言えよう
▼忠彦氏はこの「ルパン」で、太宰のほか、織田作之助や坂口安吾といった無頼派作家も撮影。それらの写真には文豪の素顔が見事に活写されている。氏は「人間の写真が面白いと思ったのは、作家を撮りだしたのがきっかけだ」との言葉も残している。時代感を反映してか、生の肯定とも言うべき写真家としてのあたたかい眼差しも感じられる
▼話は少々飛躍するが、それらの写真の舞台となった「ルパン」が開店90年を迎えたとの記事を最近の新聞で見た。訪れて「太宰が座った席はどこですか」と尋ねる客が今も絶えないと聞く。昭和の香りが色濃く残る老舗が、銀座の路地裏でこの先も長く続いていくことを願いたい。

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