コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2018/06/12

空前の猫ブーム、その真相

▼空前の猫ブームだという。昨年暮れには推計飼育数で猫が犬を初めて上回ったという調査結果も発表された
▼ある新聞記事によれば、アンケートで猫が好きかどうかを尋ねたところ、「はい」と答えた猫派が52%、「いいえ」と答えた非猫派が48%となり、意外にもその差はわずかだった。かつては「猫は苦手」という人がかなりいたような気もするが、それはいまも変わっていないのかもしれない
▼それでも現在の猫ブームは目覚ましく、メディアには連日、猫の愛くるしい映像があふれ、書店には写真集などが並ぶ。ペットショップでも猫のケージの前には犬に勝るとも劣らず人が絶えない▼考えてみれば、書店で猫関連の書籍を手に取る人も、ショップのケージの前で猫に興じる人も、その大半は猫派に違いない。ブームとともに、猫派の熱もますます上がっているようだ
▼猫の魅力を聞くと、「自由気ままな猫の生き方に引かれるのは、人間社会にしがらみが多いから」とのうがった意見や「猫はさほど手がかからず、高齢化時代にうってつけ」など時代を反映した答えがみられた
▼非猫派の回答では「猫の目が嫌い。夜に見るとビックとする」「猫が何かの役立つと聞いたことはない」など。嫌悪の情は人それぞれで、そう簡単には相いれないものらしい
▼猫好きの代表格と言えば、古くは作家・内田百閒が思い出される。随筆「ノラや」では、溺愛する野良猫の失踪による悲しみを哀切につづる。その百閒の師匠にあたる夏目漱石も「吾輩は猫である」で知られる通り、何かと猫と縁が深い。漱石自身は「犬のほうがずっと好き」と語っているが、それは猫好き作家と言われることに嫌気がさしたからとも言われる
▼漱石の随筆に「猫の墓」と題する小品がある。衰弱し死にゆく飼い猫の姿が冷静な筆致でつづられ、そこにはそこはかとない愛情がこめられている。いかにも漱石らしい適度の距離感が終始保たれていて、溺愛一辺倒になりがちな現代のペットとの接し方を逆に考えさせられもする。

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