2016/05/10
ロックキーボード革新者の死
▼今年に入って大物ミュージシャンの訃報が相次いでいる。デビッド・ボウイに始まり、グレン・フライ、モーリス・ホワイト、そして今度はプリンスだ。ロック音楽を長く愛好してきた者には、青春のページが次々と遠ざかる思いがする
▼ボウイやプリンスのようなカリスマ性は薄いだろうが、イギリスのキーボード奏者キース・エマーソン(71)の訃報も衝撃的だった。死因も拳銃自殺という悲劇的なものだ。右手の故障で演奏に影響が出ており、うつ状態にあったと聞く。4月に予定されていた来日公演の直前だったこともあり、日本のファンとしてはなおさら胸が痛む
▼エマーソンは1970年代にエマーソン・レイク&パーマー(ELP)というプログレッシブ・ロック・バンドで一世を風靡し、「タルカス」「展覧会の絵」「恐怖の頭脳改革」などの代表作を残した。当時開発されて間もないシンセサイザー(モーグ)を世界に知らしめた功績でも知られる
▼ギター全盛の時代にあって、彼のキーボードは革命的だった。その演奏はジャンルを超えてクラシックやジャズなどの要素を取り込み、キーボードを主役の座に引き上げた。ダイナミズムを感じさせる攻撃的な演奏では、いまだ右に出る者がいないのではないか
▼ステージではハモンドオルガンにナイフを突き立てたり、オルガンの下敷きになって演奏したりと、奇抜なパフォーマンスも見せたが、それが若き日の筆者の目には何とかっこよかったことか。こうした過激なステージングも、バンドでそれまで地味な存在だったキーボードを目立たせるためのショーアップとして必要だったと語っている
▼筆者が彼の演奏を初めて聴いたのはELP時代の「展覧会の絵」(1971年)だ。ムソルグスキーの大曲を大胆にアレンジしたライブ録音で、その鬼気迫る演奏に度肝を抜かれた。大団円の「キエフの大門」では「人生に終わりはなく、死に始まりもない。死こそ生なのだ」と歌われる。エマーソン死してなお、その楽曲は長く聴き継がれていくに違いない。