コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2015/10/06

妖怪たちのしたたかな夏

▼こうも天候不順で、夏が短いと、幽霊や妖怪もさぞ出番が少なかったに違いない。「怖いもの見たさで、涼しい夏がほしい」という人間の勝手な要求にも応えづらかっただろう。千葉県立中央博物館で先月23日まで開かれていた企画展「妖怪と出会う夏」を観て、そんなことを思った
▼企画展は、これまで県内の博物館や図書館、公民館と連携して妖怪情報を収集するとともに、ミニ企画展や講演会などを実施してきた諸活動の集大成と位置づけられた。河童や大蛇などに関する伝承から、房総ゆかりの怪異、さらには人々の心に棲む幽霊や死後の世界まで、様々な事例がたっぷり紹介されていた
▼中でも筆頭格の河童は、川や沼など水の豊富な本県でも伝承の事例などが多い。人の手伝いをしたり、相撲をとったり、いたずらのお詫びに薬の作り方を教えたりと、人間とのかかわりを好む妖怪でもある。その一方で「河童にさらわれる」「尻子玉を抜かれる」などと、水辺に近づく子どもを戒める道具にも使われたが、これは水の危険から人の身を守るためでもあった
▼今回の企画展でも、どこかユーモラスな河童図や、切り落とされて残ったと伝えられる河童の手(熊本県・志岐八幡宮増)などが出展された。江戸時代には河童を実在のものとして研究する博物学者も登場。江戸深川で捕獲され、博物学者の田村玄長によって鑑定されたという河童を描いた河童図(香取市教育委員会蔵)なども展示された▼妖怪やもののけは江戸時代以降も子どもの遊びの題材となり、今日まで映画や漫画、アニメのヒーローとして脈々と息づいている。水木しげるの漫画や妖怪画しかり、「学校の怪談」しかり
▼地域の伝承から、ゆるキャラなどとして生まれ変わったものもいる。本県では四百歳の妖かし「カムロちゃん」(佐倉市)、龍の姿の「龍夢」(栄町)、人魚に由来した「マリン」(大網白里市)など。時代とともに姿を変えつつ、したたかに生き続ける妖怪たち。その生命力には逞しさすら覚える。

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