コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2015/04/20

運慶と文化財受難

▼全国の寺社などで油のような液体がかけられた跡が相次いで見つかり、その被害が奈良や京都をはじめ各地に拡大している。千葉県内でも成田山新勝寺や香取神宮で被害が確認された。国宝など貴重な文化財も多く、まさに神をも恐れぬ愚行というほかはない
▼ここ最近ニュースで目にする、過激派組織「イスラム国」による文化財破壊にもやりきれなさを感じるが、日本にもこうした不届き者がいるとは、何とも腹立たしく情けない。被害がこうも広範に及んでいるところを見ると、複数犯か模倣犯でもあるのだろうか▼被害を受けた文化財の中には、東大寺南大門の金剛力士(仁王)像もある。1203(建仁3)年造立の巨像で、運慶総指揮の作と言われる
▼運慶といえば、夏目漱石の『夢十夜』に仁王像の話が出てくる。運慶が明治の世に現れ、護国寺の山門で仁王像を一心不乱に彫っている。大勢の野次馬とともに「自分」もその見事な仕事ぶりに目を見張り感嘆していると、近くの若い男が言う。「あれは眉(まみえ)や鼻を鑿(のみ)で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ」
▼「果たしてそうなら誰にでも出来る」と思った「自分」は早速家に帰って、薪(まき)用の樫(かし)を勢いよく彫ってみたが、何本彫ってみても仁王はいない。「遂に明治の木には到底仁王は埋っていないものだと悟った。それで運慶が今日まで生きている理由もほぼ解った」という、何とも粋な話のオチがつく
▼恐らくは漱石の頭にもあっただろう、ルネッサンスの巨匠ミケランジェロも似たような言葉を残している。「全ての大理石の塊の中には予め像が内包されている。彫刻家の仕事はそれを発見すること」
▼像は木や石の中に埋まっているが、それを完璧に掘り出すのは天賦のなせる業だろう。彫刻に限らず、歴史的な文化財を残すのは並大抵のことではない
▼今日の嘆かわしい文化財受難を知れば、運慶やミケランジェロはどんな顔をすることか。まったくもって合わせる顔がない。

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