2015/03/23
海底遺跡とイルカの耳骨
▼イルカの耳骨(じこつ)の化石が、幸運を呼ぶお守りやアクセサリーとして人気を呼んでいるという。房総半島突端の館山湾岸でよく見つかることから、ここから人気が盛り上がったそうだ。その話題を耳にして、以前少しかじったことのある沖ノ島の海底遺跡を思い起こした
▼館山市の沖ノ島から洲崎にかけての海岸には海中も含めて縄文遺跡が多く、沖ノ島にも縄文時代草創期から早期にかけての遺跡がある。縄文前期の海進時には海面下20数mに沈んだが、その後の巨大地震など地殻変動による隆起で再び浜辺に浮かび上がった特殊な遺跡として知られる。現在でも満潮時には海面下に沈み、干潮時には姿を現す
▼近年の発掘調査で石器や剥片、骨角器、動物の骨などが出土しているが、なかでもイルカの骨が他の動物種に比べ圧倒的に多い。被熱や切創痕など人為的な痕跡が認められるものもある
▼この付近ではイルカ漁が行われていたと推測され、同遺跡もイルカ漁の捕獲・解体の場とする見方が有力だ。館山湾へ回遊してきたイルカの群れを捕獲し、一時的な解体処理を行っていたと考えられる
▼この地域は関東大震災で約1・8mも隆起したが、過去8700年というさらに長いスパンでは25m前後の隆起があったとの分析結果があり、日本列島で最も地殻変動の激しい場所とも言われる
▼話は戻るが、イルカの耳骨は2、3㎝の大きさで、黒か薄茶色。他の部分の骨より硬いため、死後に脱落して化石になる。形が七福神の布袋様に似ていることから「布袋石」、南房総地域では「だるま石」と呼ばれて珍重された
▼この地で化石が多く見つかるのも、遥か昔の縄文人の生活と無関係ではないだろう。最近では化石を見つけるのも難しくなったそうだが、仮に化石発見の幸運に恵まれたとしても、喜ぶばかりでなく、発見の遠因ともいえる過去の地殻変動にも目を向ける必要がある。ひとたび巨大地震にでも見舞われれば、耳骨の化石が〝お守り〟になってくれるという保証はどこにもないのだから。