2011/09/26
ある自然食和食店の志
▼一億総グルメといわれる昨今、素材にこだわる飲食店がずいぶんと増えた。肉にしろ魚にしろ野菜にしろ、産地やブランド、生産者名などをうたった食材を使う料理も珍しくない。耳慣れない食材に出くわすと、これはどういうものですかと店のスタッフに尋ねてみたくなる
▼県内には千産千消を掲げる飲食店も目立つようになり、こんなにおいしいものが近くにあったのかと驚かされることもある。食のこだわりは食べ手にとってもうれしい。お品書きをながめる楽しみも増えようというものだ
▼こうしたこだわりを徹底して突き詰めた和食店を、少し前に人づてに知った。歴史的な街並みで統一された城下町・大多喜の中心部にある、カウンター10席ほどの小さなお店だ。「野菜の力を食す」をコンセプトに、とびきり美味しい自然食を供する。県内産を主とした野菜類には“顔”があり、納豆や豆腐といった発酵食品は、ほとんどが手間隙かけた手作りだ
▼おばんざい風でありながら、家庭料理とも懐石料理ともいきかたが違う新鮮さがある。聞けば、店を切り盛りするご夫婦は長くニューヨークに住まわれ、多くのジャンルの料理に携わってきたという。伝統的でありながら、どこか革新的に感じられるのは、そうした外気と無関係ではないだろう。私など、逆に“和”のDNAがうずくのを感じたほどだ
▼オープンしてちょうど2年というこの店に、久しぶりに出向いた。相変わらず志が高く、内容も充実の一途。いつもながら、ご夫婦の細やかであたたかいサービスが料理に花を添える。こんなオアシスのような店があちこちにあれば、と思わずにはいられなかった。