コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2011/09/12

紀州水害にゆかりを想う

▼またも水の脅威を見せつけられる結果となった。紀伊半島を中心に、深い爪痕を残した台風12号。死者・行方不明者は百人を超え、平成に入って最悪の台風被害となった。被害規模が違うとはいえ、東日本大震災から半年、再び天変地異が牙をむいた。土砂崩れでせき止められた「土砂ダム」の決壊など、今も二次災害の危険にさらされている
▼紀伊半島の十津川流域は、世界遺産の熊野古道で知られる。有数の多雨地帯で、豊かな森と渓谷美はこの激しい風雨によって磨かれたといっても過言ではない。熊野三社の一つ、熊野那智大社のある那智勝浦町も、今回の台風で大きな被害を受けた。大社自体にも、本殿の床上まで土砂が流れ込むなどの被害が出た
▼熊野は、筆者個人にとっても思い出深い土地である。那智勝浦町の海岸近くにある補陀落(ふだらく)山寺で主に中世に行われていた「補陀落渡海」という習俗を、学生時代の研究テーマとし、この地を何度も訪れた。補陀落渡海は、観音浄土を目指して同寺の歴代住持が生きながらにして屋形舟で旅立つ捨身行で、井上靖の小説『補陀落渡海記』の題材にもなった
▼紀州・和歌山は、本県とも歴史的にゆかりが深い。黒潮を介した古くからの交流は知られるところで、勝浦や白浜などの地名は両県に共通する。かつて紀州の漁師たちが黒潮に流されながら漁をし、房総に住み着いたといわれる
▼東日本大震災では、本県も津波や液状化などで被災した。いにしえよりのつながりを思えばなおのこと、一日も早い復旧を願ってやまない。

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