2011/08/18
3・11新盆に再生の誓い
▼先日の全国紙の朝刊コラムに、柳田国男の名作「遠野物語」にある、津波で妻を亡くした夫の話が紹介されていた。「遠野物語」は、学生時代に感銘を受け、何度も読んでいたはずなのに、この話はすっかり記憶から抜け落ちていた。急いで読み返してみて、その哀切さに胸のつぶれる思いになった
▼三陸海岸の津波で妻子を亡くした夫が、霧深い夜に渚で妻の霊に会う。名を呼ぶと、振り返って、にこっと笑った。だが妻は2人連れで、やはり津波で死んだ、元の恋人と今は夫婦でいると言う。「子どもは可愛くないのか」と問うと、妻は少し顔色を変えて泣いた。夫が悲しく情けなくなって視線を落としているうちに、男女は足早に立ち去り見えなくなってしまう
▼簡潔な文語体で、不慮の災害で妻を亡くした男の愛情と嫉妬が狂おしいまでに伝わってくる。怪異な趣が、残された生身の人間の悲しみを際立たせる、珠玉の短章といえよう
▼「遠野物語」は、柳田が遠野在住の青年から話を聞き取り、まとめた説話集で、1910年に発表された。民俗学の夜明けを告げた名著としても名高い。柳田は三陸海岸をよく歩き、東北を深いまなざしで見つめた。厳しい因果を抱える東北の風土を描いた別の著作「雪国の春」にも、やはり津波の話が出てくる。先の一話とともに、1986年の明治三陸地震による津波の話であろうか
▼時は流れて、今夏は3・11の犠牲者には新盆となった。66回目の終戦記念とも重なり、去来する思いは例年以上に深い。改めて、復興に向けた再生への誓いをたてたい。