2014/10/20
仏作家モディアノ受賞に思う
▼10月6日からのノーベルウイークは、日本人の受賞があるや否やで盛り上がった。平和賞に憲法9条の受賞が取りざたされたことを考えれば、日本人というより日本全体といったほうが適当かもしれない。文学賞は毎年下馬評に上る村上春樹氏ではなく、フランス人作家のパトリック・モディアノ氏が受賞した
▼モディアノは筆者にも馴染みのある作家で、自宅の本棚に4冊ほど著作があったが、正直、ノーベル賞は意外な気もした。彼の作品は明快で心地よく興趣みなぎる物語が多いが、ノーベル賞にはやや小粒で、重量感に欠ける印象があったからだ
▼「記憶やアイデンティティー、失われた時を探し求め、時代を超越した主題を書いている」とはスウェーデン・アカデミーのコメントだが、まさにその通りだと思う。叙情的でミステリアスな作風はどの作品にも大なり小なり共通する
▼筆者が読んだ中で最もその特徴が感じられたのは『さびしい宝石』という作品だ。孤独で怖がり屋の19歳の少女テレーズがある日、死んだはずの母親とそっくりの女性を見かけたことから、母親の人生を探すことで自分を見つけようとする、いわば自分探しの物語。自ら不幸な少年時代を送ったモディアノ自身、アイデンティティーの不確かさにとまどい、欠落感を感じてきたと言われる。その意味でこの主人公には作者自身が投影され、〝らしさ全開〟の作品と言える
▼モディアノの人気は本国では想像以上に高く、「モディアノ中毒」という言葉があるほどだ。『ルシアンの青春』や『イヴォンヌの香り』は映画化もされている。また代表作の『暗いブティック通り』は、韓流ドラマ「冬のソナタ」に影響を与えたという
▼この本を手にしたとき、〝「冬ソナ」はここから始まった〟との帯文に少々違和感を覚えた記憶があるが、要は「冬ソナ」の脚本家2人がこの作品に影響を受けたということらしい。モディアノのノーベル賞受賞を機に、こうした相似点に興味をもって彼の本を手に取る人も多いのではなかろうか。