コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/08/12

郷愁誘うオルゴール

▼お盆休み中に訪れた栃木県・那須に、オルゴールをテーマとする美術館があった。世界各国のオルゴールを常時100点ほど展示し、スタッフによる実演では当時そのままの音色が楽しめる。その歴史や変遷をたどりつつ、それぞれの作品に込められた制作者や所有者たちの思いが伝わってくるようだった
▼ひと口にオルゴールといっても、イメージ通りの小ぶりで可憐なものから、驚くほど大掛かりで迫力ある音色のものまで幅広い。種類や形状を問わず、繊細で精巧なメカニズムを持つ点は共通している。それもそのはず、初期(1820年頃)のシリンダー式オルゴールは時計の一部品から枝分かれしたもので、フランスの時計技師が戦火を逃れてスイスに移り住み、時計とともに精密機械として制作した経緯がある
▼シリンダー式オルゴールの改良・発展は目覚ましく、次第に大型化し、数多くのタイプが制作された。貴族など上流階級が愛好する精巧な楽器あるいは美術工芸品としても発展していった。その一方で、熟練の技術や時間・労力を要することや収録曲数に限界があることなど、いくつかの欠点もあった
▼そこで登場したのがドイツで考案されたディスク式オルゴール。薄い鋼鉄のディスク(円盤)をプレスすることで、量産が可能になり、ディスクの交換により多くの曲を楽しめるようになった。シリンダー式に比べてストロークも強く、音の迫力や表現力も増した
▼ディスクはすでに現代のレコードを彷彿とさせるが、こうした技術がアメリカに渡ると、小型の家庭用と大型の営業用に分かれ、大型のものはジュークボックスの原点といえるものになった。しかし20世紀に入ると、音楽だけでなく人の声まで再生できる蓄音機が主流となり、オルゴールの時代は終焉を迎える
▼現代のオルゴールは音楽玩具のように思われがちだが、その歴史をひもとけば、驚くほどの価値や影響力を持っていた。癒しの求められる現代には、こうした過去への郷愁を誘う調べに耳を傾けるゆとりがほしい。

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